系統用蓄電池投資の全体像|導入条件・補助金制度・収益性と制度リスクを総まとめ

系統用蓄電池

系統用蓄電池 投資


はじめに

系統用蓄電池への投資を検討する方が増えています。容量市場や需給調整市場といった制度の整備が進み、安定的な収益モデルとして注目されています。ただし、オークションの種類によっては利益の還元義務があるほか、落札自体も競争が激しく容易ではない場合があります。土地の使用用途の制限や建築確認の手続き、固定資産税に関することなど、設置にあたって押さえるべき法制度も多くあります。

災害活用や特定の事業活動での電力安定化など柔軟な事例も広がるなか、本記事では基礎知識から具体的な活用方法までをわかりやすくご紹介します。

■この記事で分かること■


◆ 系統用蓄電池の仕組みと電力系統における役割

◆ アグリゲーター制度や容量市場と関連する投資制度の理解

◆ 設置に必要な初期費用・系統接続・固定資産税の知識

◆ 需給調整市場や災害活用を踏まえた収益モデルと利回り分析


系統用蓄電池とは?役割と注目される背景


電力系統における系統用蓄電池の役割とは

系統用蓄電池は、電力系統の安定化を担う重要な設備です。なぜなら、電力は常に「需要と供給のバランス」が求められ、わずかなズレでも停電や周波数の乱れにつながるためです。この蓄電池は、電力の余剰時に充電し、不足時に放電することで、需給のギャップを瞬時に調整することができます。

しかし、充放電時にはエネルギーロスが発生するほか、継続的な使用により蓄電池自体が劣化するため、長期的な運用においてはこれらの性能低下要因を考慮する必要があります。

太陽光発電の出力が急変した際にも、蓄電池が電力を一時的に補うことで、家庭や産業用電力の品質を保つことができます。こうした系統用蓄電池は「系統運用側の調整役」として活用され、2022年5月の電気事業法改正では、10MW以上の系統用蓄電池が発電所として扱われ、系統利用料や調達価格等に関する契約が可能になりました。

その後、同年12月の法改正により、蓄電池単独で送電線を介して系統電力に放電することが明確に認められ、これが単独での設置による新たな投資ビジネスの本格化を推進しました。

再エネ拡大と系統安定化ニーズの高まり

系統用蓄電池が注目される背景には、再生可能エネルギーの普及拡大があります。というのも、太陽光や風力といった再エネは自然条件によって出力が大きく変動し、系統への負荷が高まる傾向があるからです。

昼間に太陽光が急激に発電したあと、夕方には一気に発電量が落ちる現象が典型例です。こうした変動を緩和するには、リアルタイムで電力を貯めたり放出したりできる蓄電池の存在が不可欠です。

このような背景から、経済産業省も容量市場や需給調整市場を通じて蓄電池の導入を促進しており、投資対象としても高い注目を集めています。

系統用蓄電池市場の現状と今後の成長性


国内外の市場規模・成長予測と導入状況

系統用蓄電池の市場は国内外ともに急速に成長しており、今後も拡大が見込まれています。これは再生可能エネルギーの普及が進む中で、電力の安定供給が課題となっているためです。

日本国内では再エネの導入量が年々増加しており、それに伴って電力系統の調整力を担う蓄電池のニーズが高まっています。国は2030年までに再エネ比率を高める方針を掲げており、これに伴い大規模蓄電池の導入も大幅に増加すると予測されており、蓄電池事業への参入企業も増加傾向にあります。

しかし、この事業は複雑であり、高い収益を上げるには専門的な知識と経験が不可欠です。また、この事業は高額な初期投資が必要となる傾向が見られます。

また、海外においても米国や欧州を中心に導入量が急増しており、グローバル市場としての成長性にも注目が集まっています。

容量市場・需給調整市場との関係性

系統用蓄電池は、容量市場や需給調整市場と密接に関連しています。これは蓄電池が単なる蓄電設備ではなく、電力の需給バランスを保つ調整力として評価され、経済的な価値を生み出すからです。

具体的には、容量市場では将来の供給力確保に貢献するリソースとして入札対象となり、需給調整市場では需給ギャップに応じた放充電を行うことで報酬が得られます。

ただし、要請された放電電力量を達成できなかった場合にはペナルティが課され、取引停止となるリスクの他、容量市場での落札は競争が激しく誰でも容易に達成できるものではなく、収益化には実取引の4年を要する点、また需給調整市場への参加には規模の制約や頻繁な制度変更リスクを伴う点に留意が必要です。これらの市場で安定した収益を最大化するには、電力市場の動向予測や最適な充放電タイミングの決定に高度な専門知識と運用技術が不可欠となります。

アグリゲーターが複数の蓄電池をまとめて市場に参加する仕組みによって、小規模な蓄電設備も収益化が可能となっています。 しかし、収益性はアグリゲーターの選定によって大きく異なるため、適切な選択が重要です。このように系統用蓄電池は、これらの市場における戦略的な活用によって、単なる設備投資から収益事業へと変化しているのが実情です。

系統用蓄電池に関する制度・ルールを整理


アグリゲーター制度と容量確保契約の仕組み

系統用蓄電池の活用には、アグリゲーター制度と容量市場の理解が不可欠です。なぜなら、これらは蓄電池を電力市場に参加させるための法的・制度的な枠組みを担っているからです。

アグリゲーターとは、複数の分散型エネルギーリソース(系統用蓄電池など)を束ねて需給調整市場などに提供する事業者のことで、蓄電池を所有する事業者が市場で収益を上げるための運用代行やサポートを行います。

一方、容量確保契約は将来の電力供給力をあらかじめ確保するために設けられた仕組みで、蓄電池も対象設備として位置づけられています。 これにより、投資家は蓄電池の安定収益を見込むことができ、制度的にも参入ハードルが下がっています。ただし、投資にはリスクがつきものです。

需給調整市場・FIT制度との違いと関係

系統用蓄電池は、電力の「売電価格固定」を目的とするFIT制度とは異なる役割を持つ需給調整市場において、電力の過不足をリアルタイムで補う資源として利用され、入札や運用実績に応じて収益が発生します。

ただし、太陽光発電などの再生可能エネルギー発電所に系統用蓄電池が併設されているケースでは、発電設備由来のFIT制度による売電収入に加え、系統用蓄電池による需給調整市場での調整力提供による報酬を同時に得ることが可能です。

このように、蓄電池は制度間の役割の違いを理解することで、より戦略的な投資判断が可能になります。

投資に必要な初期費用・設置条件・補助金


設置にかかる費用・設備規模・系統接続要件

系統用蓄電池への投資を検討する際には、設置にかかる初期費用や設備の規模、そして電力系統との接続要件を正しく理解することが重要です。なぜなら、これらの要素は収益性や運用の可否に直結するからです。

蓄電池の導入費用は容量や性能によって異なりますが、1kWhあたり数万円が相場とされ、大規模設備では数千万円から数億円規模になることもあります。

土地の地盤状況や系統接続までの距離、騒音対策の必要性など、設置場所の条件によって追加の工事費用が発生する可能性があります。

また、メーカー選定は価格だけで判断するのではなく、故障時の部品交換が困難になるリスク等も考慮して選びましょう。なお、卸電力市場で取引を行うためには最低でも50kWの定格出力を持つ蓄電池が必要であり、現実的な事業運営には2,000kWh以上の容量が望ましいとされています。

加えて、設置場所の土地条件(例えば、一般的な事業規模(蓄電容量4,000kWh程度)では約600坪から765坪以上が目安となり電力系統への近接性(送電線から500m以内が理想)、大型車両や重機が進入可能な道路、そして騒音対策の観点から半径50m以内に民家がないことなど)やリチウムイオン電池に内在する熱暴走による火災リスクへの対策を含む安全基準、電力会社との系統接続協議も必要です。

この際、電力系統に空き容量があるかどうかの確認が重要であり、良好な立地では既存の再生可能エネルギー発電所が設置されているため、新たな系統用蓄電池の適地を見つけるのが困難な場合があります。

系統連系を行う場合には専門的な設計審査や調整が不可欠であり、時間とコストがかかります。特に、系統への接続は希望してもすぐに実現するものではなく、需要が集中するエリアでは年単位での待機が必要となる場合があり、これが事業開始時期に大きな影響を与える可能性があります。

このような要件を踏まえて初期費用を正確に見積もることが、成功する投資の前提条件になります。

国や自治体の補助金・優遇制度を活用する方法

系統用蓄電池の導入にあたっては、国や自治体が提供する補助金や優遇制度を活用することで、投資負担を軽減することが可能です。なぜなら、蓄電池は再生可能エネルギーの安定利用や災害時のBCP対策として政策的に推進されているからです。

例えば、経済産業省や環境省の蓄電池導入促進事業によって、設備費用の一定割合を支援対象とし、対象となる事業や設備の規模など、特定の条件を満たせば大規模な補助金を受けられるケースもあります。

ただし、補助金制度は年度ごとに公募期間や内容が異なり、募集が終了している場合もあるため、最新の情報を確認し、早期に準備を進めることが重要です。 また、必要な申請書類の準備や事前審査が求められ、複雑な申請プロセスを考慮すると、専門家のサポートを受けることが推奨されます。

このように、公的支援をうまく組み合わせて導入コストを抑えることが、投資リスクを減らすうえで効果的な手段となります。

系統用蓄電池の収益モデルと利回りの仕組み


収益の柱はどこか?容量市場・DR・BCP活用

系統用蓄電池の主要な収益源は、卸電力市場での売買(アービトラージ)、容量市場からの報酬、そして需給調整市場からの報酬の3つが柱となっています。

ただし、卸電力市場からの収益は、市場価格の大きな変動(価格差)に直接依存するため、価格差が小さい状況(例:曇りや雨天時)では十分な利益が見込めない可能性がある点に注意が必要です。

また、これらの市場で安定した収益を最大化するには、電力市場の動向予測や最適な充放電タイミングの決定に高度な専門知識と運用技術が不可欠であり、多くの事業者はアグリゲーターに運用を委託することが一般的です。

特に、需給調整市場では規模の制約や制度変更リスク、容量市場では発動指令のタイミングの不確実性といった運用上の特性があります。卸電力市場での収益性は地域によって異なり、電力価格の変動は非常に大きく、収益が大幅に変動する高リスクを伴います。

BCP(事業継続計画)用途は、災害時の電力確保に役立ちます。また、系統用蓄電池は、あくまで電気を使用する施設(会社や工場など)に接続する場合に限り、電気を使用する施設に接続した場合に、ピークカット(厳密にはピークシフト)などによる電力コスト削減にも貢献できます。これらの用途は、主に当該施設の電気料金削減やレジリエンス強化に寄与するものです。

容量市場では、将来の電力供給力を確保する役割に対して報酬が支払われ、需給調整市場(デマンドレスポンス(DR)を含む調整力提供)では、需給バランス調整のための充放電によってインセンティブが得られます。また、BCP用途として災害時に蓄電池を自社利用する企業もあり、これにより電力コスト削減とレジリエンス強化の両立が可能です。

このように、複数の市場や用途を組み合わせることで、収益の安定性を高める戦略が広がりつつあります。

投資回収期間と利回りシミュレーション事例

系統用蓄電池の投資回収期間は、複数の収益源を適切に組み合わせることで、中長期的な回収が見込まれます。容量市場や需給調整市場への安定的な参加(※1)、および卸電力市場の価格変動を適切に活用することで、投資回収期間は数年で達成できる可能性があり、容量市場での落札、需給調整市場への安定的な参加、そして卸電力市場の価格変動を適切に活用できる場合、年間利回りで5%以上を期待できるアップサイドシナリオも存在します。

ただし、これらの数値は市場の変動や運用戦略、補助金制度の活用状況に大きく左右され、ダウンサイドシナリオでは収益が期待できない場合もあります。

容量市場と需給調整市場に安定して参加できる場合は、数年での回収も可能とされ、卸電力市場の価格実績に基づいた試算では、年間利回りで5%以上が期待できるシナリオも存在します。

事前に投資シミュレーションを行い、導入費用・市場収益・維持管理コストを正確に見積もることが、利回りを確保する上での鍵となります。

※1:容量市場での落札は競争が激しく誰でも容易に達成できるものではなく、需給調整市場には参入規模の制約や制度変更リスクも伴います。また、容量市場の収益化は実取引の4年後となる点にも留意が必要です。

まとめ

系統用蓄電池への投資は、容量市場や需給調整市場における収益化の可能性が高まり、再生可能エネルギーの導入拡大とともに注目されています。アグリゲーター制度や容量確保契約を活用すれば、電力系統の調整力として経済的価値を得られます。 初期費用や系統接続条件、補助金制度の把握が成功の鍵となり、制度変更リスクや価格変動にも柔軟に対応する視点が不可欠です。

投資判断にはシミュレーションと事例分析が重要です。

2025/06/20系統用蓄電池投資の全体像|導入条件・補助金制度・収益性と制度リスクを総まとめ

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