系統用蓄電池とアグリゲーターの関係性は、再生可能エネルギーの普及とともに注目されています。系統用蓄電池の設置においては、円滑な事業遂行と運用のため、建築確認や法制度との整合性を確保することが重要です。
災害時の非常電源としての活用例も増えていますが、これは電気を使用する施設に系統用蓄電池を接続する場合に限るといった前提条件があり、多面的な準備が求められます。本記事では、アグリゲーターの役割や系統用蓄電池の導入メリット、制度対応のポイントをわかりやすく解説します。
◆ 系統用蓄電池とアグリゲーターの仕組みがわかる
◆ 電気事業法や需給調整市場の制度が理解できる
◆ アグリゲーターの収益モデルと再エネ活用がわかる
系統用蓄電池が注目されるのは、再生可能エネルギーの不安定な出力を調整し、電力の安定供給を支える役割があるからです。再エネは自然条件に左右されるため、発電量が大きく変動しやすく、電力系統のバランス維持が課題になります。このような変動に即応できる調整力を持つ設備として、蓄電池は非常に有効です。
再生可能エネルギーの無駄をなくすための解決策の一つとして、国が系統用蓄電池の導入を強力に推進し、補助金制度を強化している点も、注目度が高まる大きな理由です。
太陽光や風力といった再エネ電源の増加により、調整力の確保は今や電力インフラ全体の安定性に直結する要素となっています。系統用蓄電池は、こうした背景を受けて、市場が求める特定の応動時間内に需給バランスを調整する能力が評価されており、バーチャルパワープラント(VPP)の構築でも中核的な存在となっています。ただし、要請された応動時間を満たせない場合や運用に専門知識が不足する場合は、市場取引での収益が困難になったり、ペナルティが発生するリスクがあります。
特に、定格出力10MW以上の系統用蓄電池は発電所として扱われ、特定の系統利用料や調達価格等に関する契約を結ぶことが可能になります。
系統用蓄電池の活用が進む背景には、複数の実用的な用途が存在しています。なかでも特に重要なのが、需給調整力の確保とピーク電力の抑制、そしてFIP制度への対応です。
電力の需要が急増する時間帯には、電気を使用する施設に接続された蓄電池に貯めた電力を放電することでピークを緩和でき、電力料金の高騰や系統の不安定化を防ぎます。
また、FIP制度下で事業者が負うインバランスリスクの軽減などで、蓄電池と組み合わせることで市場の変動を見極め、専門的な運用を行うことで収益の最大化を図ることが可能です。
しかし、市場価格の変動や蓄電池の劣化、充放電ロスを考慮した運用判断が不可欠であり、安定した収益を保証するものではありません。蓄電池は使用に伴い劣化するため、投資においては「劣化のしにくさ」も重要な判断基準となります。また、充放電時にはロスが必ず発生することも考慮が必要です。
これらの機能は、単なる蓄電設備にとどまらず、戦略的な電力運用ツールとしての蓄電池の価値を高めており、系統安定化と事業収益の両立を可能にしています。
アグリゲーターとは、複数の電力需要や分散型電源を束ねて一つの電力リソースとして制御・管理する事業者のことです。これは、需要家の節電行動を集約して電力系統に貢献する「デマンドレスポンス(DR)」や、仮想的な発電所として機能する「バーチャルパワープラント(VPP)」に欠かせない存在です。
国は、再生可能エネルギーの導入拡大や電力系統の安定化を目指し、系統用蓄電池を含む分散型エネルギーリソースの活用を政策的に支援しており、アグリゲーターもその重要な担い手として注目されています。
たとえば、需給調整の担い手として期待されるアグリゲーターは、再生可能エネルギーの普及を支える重要なプレーヤーとして政策的にも後押しされており、アグリゲーターは、系統用蓄電池を含む分散型エネルギーリソース(DER)を束ねて管理・活用し、効率的な電力運用を実現することで電力システムの柔軟性向上に貢献します。
アグリゲーターは、需給調整市場や容量市場において電力の安定供給を支える中核的な役割を担います。需給調整市場では、電力の供給と需要をリアルタイムで一致させることが求められ、アグリゲーターは蓄電池や需要家の電力負荷制御を活用して柔軟に対応できます。
容量市場では、将来の需要に対応できる供給力を確保するための取引が行われ、アグリゲーターは系統用蓄電池などを通じて調整可能な電源として評価されます。こうした市場参加によって、アグリゲーターは電力システムの柔軟性と信頼性を高める存在となりつつあり、電力システムの柔軟性と信頼性を高めることで、脱炭素の実現や持続可能なエネルギー社会の構築に貢献します。
アグリゲーターが需給調整市場に参加する場合、単独では規模の制約などのハードルがありますが、複数の分散型電源を束ねて運用するアグリゲーターを介することで市場参加が容易になります。
また、市場からの要請達成には専門的な運用能力が必要とされ、要請を達成できなかった場合にはペナルティが課される可能性もあります。系統用蓄電池の収益化においては、適切なアグリゲーターを選定することが重要です。
なぜなら、同じ蓄電所であっても、アグリゲーターの運用能力や戦略によって収益が大きく異なる場合があるため、アグリゲーターの選定が事業の成否を分ける重要な要素となるからです。
アグリゲーターが系統用蓄電池を活用する主な理由は、需給調整市場への対応において高い柔軟性を発揮できる点です。
加えて、卸電力市場における価格差を利用した電気の取引(アービトラージ)も主要な収益源(※1)となりますが、市場価格の変動によっては常に大きな利益が得られるわけではなく、蓄電池の劣化や充放電ロスを考慮した運用判断が不可欠です。電力の需要と供給は常に一致していなければならず、そのバランスを保つ役割が求められます。
※1これには最低でも定格出力50kW以上かつ容量500kWh以上の系統用蓄電池システムが必要です。ただし、これは最低取引単位であり、現実的な事業運用を考慮すると、2,000kWh以上、または3時間6コマ分の取引に対応できる3,000kWh程度の容量が望ましいとされています。
蓄電池は短時間での充放電が可能で、予測困難な変動にも即時に対応できるため、再生可能エネルギーの導入が進む中で非常に有効なリソースとなります。アグリゲーターは蓄電池のこうした特性を活かして需給調整市場に参加し、指令応答や周波数調整といった機能を提供しています。
結果として、アグリゲーターは電力の品質と安定性を高める中心的な存在となりつつあります。
系統用蓄電池は、分散型エネルギーリソース(DER)の一つとしてアグリゲーターに活用されています。DERとは、家庭用太陽光発電、小規模風力、蓄電池などの小規模な電源を指し、それらをまとめて制御することで仮想的な発電所=VPP(バーチャルパワープラント)を形成します。
VPPは複数のDERをIT技術で統合・制御し、大規模電源と同様に機能させる仕組みです。アグリゲーターはこのVPPの司令塔として、蓄電池を含むさまざまな電源を最適に運用し、電力需要に応じた調整を行います。
この高度なエネルギーマネジメントによって、効率的かつ柔軟な電力供給が可能になります。
系統用蓄電池は、アグリゲーターが参加するバランシンググループにおいて、または電力システム全体の需給調整に貢献する重要な調整力として機能します。
バランシンググループとは、新電力などの電力小売事業者が主体となり、自らの需要と供給を内部で調整する運用形態であり、中央給電所指令システム(中給システム)によって管理されることで、電力系統全体の需給管理に貢献します。
蓄電池があることで、急な需要変動や予測誤差にも柔軟に対応でき、安定したグループ運営が実現します。特に再生可能エネルギーの割合が高まる現在、系統の安定化は喫緊の課題であり、アグリゲーターは蓄電池を戦略的に配置することでその解決に貢献しています。
こうした系統安定化への役割を果たしています。
アグリゲーターが系統用蓄電池を導入する最大のメリットは、専門知識と適切な運用戦略、そして選定されたアグリゲーターの巧緻性によって電力取引による収益の創出と、再生可能エネルギーの有効活用による企業価値の向上です。
蓄電池を活用すれば、需給調整市場や容量市場での取引を通じて収益が期待できますが、市場価格の変動、需給調整市場の制度変更、容量市場での落札難易度、および蓄電池の劣化・充放電ロスといった要因により、必ずしも安定的なキャッシュフローが保証されるわけではありません。再エネ電力の発電タイミングと消費タイミングのミスマッチを吸収できます。
これは、太陽光や風力のような変動電源の出力を効率的に制御できる手段でもあり、再エネ比率を高めたい企業にとって大きな強みです。加えて、脱炭素社会への取り組みとして蓄電池の導入が持続可能な社会の実現に貢献し、投資家や地域社会からの信頼獲得にも寄与するという波及効果があります。
※また、長期脱炭素電源オークションで落札した場合、発電所の初期費用や運用費用を20年間にわたり安定的に確保できますが、初回のオークションでは蓄電池の落札率が24%と非常に低く、誰もが簡単に落札できるものではありません。 また、落札金額を超える利益が出た際には、その収益の9割を国に還元する必要があります。
系統用蓄電池とアグリゲーターの組み合わせには大きな可能性がある一方で、事業化にはいくつかのハードルも存在します。
こうした課題を乗り越えるには、制度設計の動向を常に把握し、実証実験や支援制度を活用して事業性を高める工夫が重要となります。
蓄電池とアグリゲーターを組み合わせることで、再生可能エネルギーを核とした新たな電力ビジネスが拡大しつつあります。再エネは発電量の変動が大きく、その調整力を補うために蓄電池の存在が不可欠です。
アグリゲーターはその蓄電池をはじめとした分散型電源を束ね、需給調整市場や容量市場に参加することで、電力の安定供給と収益化の両立を実現します。
今後の制度整備や補助金支援が導入を後押しするとともに、初期費用を抑える新たな事業モデルの模索・導入が進められています。脱炭素社会の実現を目指すうえで、系統用蓄電池とアグリゲーターは極めて重要な役割を担っていくといえるでしょう。